AIとデザイン

AIで作ったチラシが公共施設で『浮いてしまう』本当の理由

2026-07-11

最近はAIを使えば、専門的なデザインソフトを使いこなせなくても、短時間で華やかなチラシを作れるようになりました。

映画のポスターのような背景、印象的な光、立体感のある文字、雰囲気のある人物。

画面に表示された瞬間は、「すごい」「かっこいい」「これなら目立ちそう」と感じます。

ところが、そのチラシを自治体、学校、公民館、図書館などの掲示板に貼ってみると、なぜか周囲から浮いて見えることがあります。

確かに華やかではある。
けれど、何のイベントなのか分かりにくい。
日時や場所がすぐに見つからない。
なぜか少し軽く見えたり、不安に感じたりする。

見た目は整っているのに、広告としてはうまく機能していない。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

チラシ公共AIとデザイン

「きれいな画像」と「伝わるデザイン」は別のもの

AIが得意なのは、印象的な画像を作ることです。

「未来的」
「高級感がある」
「やさしく温かい」
「力強く迫力がある」

こうした言葉を入力すれば、AIはそれらしい色や光、背景、人物を組み合わせて、完成度の高そうなビジュアルを作ってくれます。

しかし、イベントチラシに必要なのは、雰囲気だけではありません。

何のイベントなのか。
誰が参加できるのか。
いつ、どこで行われるのか。
どうやって申し込むのか。
誰が主催しているのか。

こうした情報を、見る人が迷わない順番に並べる必要があります。

つまり、チラシに必要なのは、画像を作る力だけではなく、情報の優先順位を決める力です。

AIは一つひとつの要素を華やかにすることは得意です。

一方で、「このチラシでは、何を一番大きく見せるべきか」という判断は、イベントの目的や掲示場所、見る人によって変わります。

ここは、人が考えなければならない部分です。

作り手は「読んでもらえる」と思っている

イベントを企画した人は、そのイベントについて多くのことを知っています。

開催する理由も、参加してほしい人も、講師の魅力も、込めた思いも分かっています。

そのため、チラシを作るときには、

「この説明も入れたい」
「活動への思いも伝えたい」
「講師の実績も載せたい」
「世界観も大切にしたい」

と、伝えたいことが増えていきます。

しかし、掲示板の前を通る人は、そのイベントについて何も知りません。

そもそも、チラシを読むつもりで掲示板を見ているとは限りません。

施設の入口に向かう途中で、何となく視界に入るだけかもしれません。子どもの迎えで急いでいるかもしれません。何枚も並んだチラシの中から、自分に関係のある情報だけを探しているかもしれません。

作り手は「読んでもらう」前提で作ります。

しかし、見る人はその前に、読む価値があるかどうかを数秒で判断しているのです。

その数秒で、

「何の案内か」
「自分に関係があるか」

が分からなければ、詳しい説明まで読んでもらえません。

「目立つ」と「見つけてもらえる」は違う

チラシを作るときには、「もっと目立たせたい」という話がよく出ます。

そこで、文字を大きくする。
色を鮮やかにする。
光や装飾を増やす。
人物やイラストを大きく配置する。

もちろん、目立つこと自体は悪くありません。

ただし、大切なのは、何が目立っているかです。

たとえば、子ども向けの防災イベントで、炎や崩れた建物を大きく描けば、掲示板では目立つかもしれません。

しかし、保護者や子どもには「怖そう」「参加しにくそう」と受け取られる可能性があります。

反対に、かわいいキャラクターを前面に出しすぎると、防災を学ぶイベントではなく、単なる遊びの催しに見えてしまうかもしれません。

派手なチラシは、多くの人の視界に入ります。

伝わるチラシは、必要としている人に「自分のための情報だ」と気づいてもらえます。

広告として大切なのは、ただ目立つことではなく、必要な人に見つけてもらうことです。

公共施設では「安心して参加できそうか」も見られている

公共性の高い場所に掲示されるチラシでは、内容だけでなく、主催者への信頼感も見られています。

「誰が開催しているのか」
「参加して大丈夫なのか」
「子どもを連れて行っても安心か」
「何かを売りつけられないか」

見る人は、こうしたことを無意識に判断しています。

そのため、主催者名、問い合わせ先、会場、参加方法などが、分かりやすく書かれていることが重要です。

ところが、ビジュアルを優先しすぎると、主催者名が小さくなったり、問い合わせ先が背景に埋もれたり、申し込み方法が二次元コードだけになったりします。

作る側は「読み取れば詳しく分かる」と思っていても、見る側は読み取る前に、安心できる情報を探しています。

特に、子ども、高齢者、健康、福祉、防災などに関係するイベントでは、楽しそうに見えることだけでなく、きちんとして見えることも大切です。

ここでいう「きちんとしている」とは、堅くて地味なデザインにすることではありません。

文字の位置がそろっている。
情報が整理されている。
色の使い方に一貫性がある。
主催者や連絡先が明確である。

こうした小さな積み重ねが、安心感につながります。

人はデザインの違和感を、言葉にできなくても感じている

AIで作った画像には、ときどき細かな不自然さが残ります。

人物の手や指。
背景にある文字。
物の形や大きさ。
影の方向。
建物や家具の構造。

見る人が、その間違いをはっきり見つけるとは限りません。

それでも、

「なぜか落ち着かない」
「少し安っぽく見える」
「作り物っぽい」
「内容が頭に入ってこない」

と感じることがあります。

違和感は、一つの大きな失敗から生まれるとは限りません。

写真の雰囲気とイベント内容が合っていない。
書体と主催者のイメージが合っていない。
背景が派手すぎて文字が読みにくい。
人物の視線や姿勢が少し不自然。

こうした小さなズレが重なり、全体としての不安感になります。

特に公共施設では、チラシは一枚だけで見られるものではありません。

自治体のお知らせ、学校の案内、地域活動、防犯情報、講座の募集など、さまざまな掲示物の中に並びます。

その中で一枚だけ広告色が強かったり、極端に派手だったりすると、目立つと同時に、周囲から浮いて見えることがあります。

目立っているのに、信頼されない。

これが、AIで作ったチラシが公共施設で浮いてしまう理由の一つです。

スマートフォンできれいでも、掲示板では見え方が変わる

AIで作ったチラシは、多くの場合、最初にスマートフォンやパソコンの画面で確認されます。

画面は光っているため、色が鮮やかに見えます。小さな文字も、拡大すれば読むことができます。

しかし、印刷物は光りません。

画面では明るく見えた背景が、印刷すると暗くなることがあります。細かな模様や装飾が、文字の読みやすさを邪魔することもあります。

また、掲示板ではチラシを手に持って読むとは限りません。

少し離れた場所から見られます。
ガラス越しに掲示されることもあります。
照明が映り込むこともあります。
通り過ぎながら見られることもあります。

そのため、チラシは見る距離によって役割を変える必要があります。

遠くから見たときには、何の案内かが分かる。
少し近づいたときには、自分が対象かどうかが分かる。
近くで見たときには、日時や申し込み方法が分かる。

文字の大きさや情報の順番に差をつけるのは、単に見た目を整えるためではありません。

人が見る順番と距離を設計するためです。

公共性が高いデザインは、地味なデザインではない

公共施設に合うデザインというと、無難で地味なものを想像するかもしれません。

しかし、公共性とは、個性をなくすことではありません。

さまざまな年齢や立場の人が見ることを考えることです。

若い人だけが見るとは限りません。
小さな文字を読める人だけとも限りません。
二次元コードを使える人だけとも限りません。
イベントの内容を知っている人だけとも限りません。

文字を少し大きくする。
背景と文字の差をはっきりさせる。
対象者を具体的に書く。
難しい言葉を言い換える。
申し込み方法を複数用意する。

こうした工夫は派手ではありません。

けれど、公共性の高い場所では、この目立たない配慮こそが、デザインの品質になります。

デザイナーは、きれいにする人ではなく「間に立つ人」

デザイナーというと、色や書体を選び、見た目をきれいにする人だと思われがちです。

しかし、実際には、制作に入る前の整理が重要です。

誰に見てほしいのか。
どこに掲示するのか。
どのような状況で見られるのか。
何を最初に伝えるのか。
見た人に何をしてほしいのか。

こうした条件を整理したうえで、文字、色、写真、余白、情報の順番を決めます。

作り手は、伝えたいことを知っています。
見る人は、知りたいことを探しています。

この二つは、必ずしも同じではありません。

作り手は、イベントを始めた思いを一番伝えたいかもしれません。

しかし、見る人は先に、

「自分も参加できるのか」
「料金はいくらなのか」
「子どもを連れて行けるのか」

を知りたいかもしれません。

デザイナーは、作り手の思いを削っているのではありません。

見る人が受け取りやすい順番に並べ替えているのです。

思いを、何も知らない人にも届く形に翻訳する。

それが、デザイナーの役割です。

AIを使うことと、AIに任せることは違う

AIは、チラシづくりにおいて非常に便利な道具です。

イメージを広げる。
背景やイラストの候補を作る。
文章案を出す。
複数の方向性を比較する。

こうした作業には、大きな力を発揮します。

問題は、AIを使うことではありません。

AIが出したものを、そのまま完成品として使ってしまうことです。

その画像は対象者に合っているか。
公共施設に置いて違和感がないか。
印刷しても読みやすいか。
主催者への信頼につながるか。
情報の順番は整理されているか。

最後に判断し、整えるのは人です。

これからは、「AIで作ったか」「人が作ったか」という違いよりも、誰のために、どのような基準で選び直したかが重要になっていくのだと思います。

「かっこいい」は感想。「伝わった」は結果

デザインを見たとき、私たちは、

「おしゃれ」
「かわいい」
「かっこいい」
「迫力がある」

と評価します。

これらは、見た目に対する感想です。

一方で、

「何のイベントか分かった」
「自分向けだと思った」
「安心して申し込めた」
「必要な情報をすぐ見つけられた」

というのは、デザインによって起きた結果です。

イベントチラシの目的は、作品として褒められることではありません。

必要な人に内容が伝わり、次の行動につながることです。

画像として目を引くことと、広告として伝わることは同じではありません。

AIによって、見栄えのよいものを作るハードルは大きく下がりました。

だからこそ、これからは、何を作れるか以上に、

誰に伝えるのか。
どこで見られるのか。
何を最初に伝えるのか。
どのような印象を残したいのか。

を考える力が大切になります。

デザインは、ただ飾るためのものではありません。

情報や思いを、相手が受け取りやすい形に整えるための設計です。

普段何気なく見ているチラシも、文字の大きさ、色、余白、写真、情報の順番に注目してみると、作り手が何を考え、誰に届けようとしているのかが少しずつ見えてきます。

こうしたデザインの違いに気づけると、世界は少し面白くなります。

そしてそれは、AIに何を作らせるかではなく、AIが作ったものをどう選び、どう整え、誰に届けるのかを考えるヒントにもなるはずです。

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